No.11865 臨床試験について教えてください

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2016.03.22 H 0 Comments

1) (乳癌診療ガイドライン2015~P20)
MA. 17試験でレトロゾールを加えたほうが再発リスクを75%減少させたとありますが、(HR:0.25,95%CI:0.13―0.46)の意味を教えてください。また生存率は腋窩リンパ節陽性(ただしリンパ節陰性ではない)、ER 陽性の乳癌の女性に関してレトロゾールを加える治療で有意だったようですが、具体的な数値でどれくらい有意だったのでしょうか?

2) BIGI-98試験 で(NCCNガイドライン2014(MS28)
①5 年間のタモキシフェンの単独使用、②5 年間のレトロゾールの単独使用、③2 年間のタモキシフェンに続いて3 年間のレトロゾールの使用、④2 年間のレトロゾールに続いて3 年間のタモキシフェンの使用
無病生存率は、レトロゾールを投与した女性の方が優れていたとありますが、①に比べ②③④が優れていたと解釈しますか? (ハザード率0.81、95% CI 0.70~0.93、ログランクP=0.003)の意味を教えて下さい。またBIGI-98試験だけを見ればどのタイミングでもAIを入れる治療は効果があるということですか?

3) ITA)試験
すでに2~3 年間のタモキシフェンを完了している乳癌の閉経後の女性426 例
① タモキシフェンを継続する群と5年
② 2~3 年間のタモキシフェン+アナストロゾール
合計5 年間の内分泌療法を完了させた。
再発に関するハザード率は、アナストロゾールを用いた連続療法の方が有利であることを強く示し(ハザード率0.35、95% CI0.18~0.68、P=0.001)、死亡が少なくなる傾向が見られた(P=0.10)272。
この試験の更新版の結果は、無再発生存率のハザード率が0.56 で(95% CI 0.35~0.89、P=0.01)、全生存率についてのP 値は0.1 にとどまっていることを示した

とありますが、アナストロゾールを加えることによって数値的に具体的にどうなったのか? 更新版の結果も数値を具体的に教えて下さい。

4)ABCSG 試験6 延長試験
(2014NCCNガイドライン~MS30)
追跡期間中央値62.3 ヵ月で、アナストロゾール投与を受けた女性(n=387)が、追加治療を受けなかった女性と比べて、統計的有意な再発リスクの抑制が得られたことが報告された(n=469、ハザード比=0.62、95% CI=0.40~0.96、P=0.031)
(n=469、ハザード比=0.62、95% CI=0.40~0.96、P=0.031)の意味と、数値的にどれくらい再発リスクを抑えたのでしょうか? また生存率は伸びていたのでしょうか?

5)乳がんガイドライン2015P59の記載事項について教えてください。適切なKi67のカットオフ値は明らかではないとありますが、ここでいうKi67/MIB―1が高値のカットオフ値を教えてください。Ki67のカットオフ値を13.25%とした場合,Ki67によって分類されたluminal Bはluminal Aと比較して有意に予後不良であり,リンパ節転移陰性,術後薬物療法を施行されていない各サブタイプの乳癌特異的10年生存率は,luminal A 92%,luminal B 79%,luminal―HER2 78%であった。とありますが、上記の意味を教えてください。Ki67のカットオフ値は14%と認識していたのですが、13・25%なら上手くルミナールAとBに分かれるのでしょうか?

6)ABCSG―8,ARNO 95,ITAの3つの試験のメタアナリシスについて教えてください(乳がん診療ガイドラインP29)
メタアナリシスではスイッチ群のほうがタモキシフェン単独よりOSが良好だったとありますが(HR:0.71,95%CI:0.52―0.98)の意味を教えてください。
またタモキシフェンと,アロマターゼ阻害薬へのスイッチを比較した試験のメタアナリシス(n=9,015)では,タモキシフェン単独に比較してスイッチ群は再発を29%〔standard error(SE)6%〕,乳癌による死亡を22%(SE 9%)低下させたとありますがSEの意味を教えてください。
タモキシフエンからAIにスイッチする試験は数多く存在しますがそれぞれの試験でOSが伸びないのにABCSG―8,ARNO 95,ITAの3つの試験のメタアナリシスにすると乳癌による死亡を22%も低下させるのはなぜですか?それぞれの試験の結果とメタアナリシスの結果ではメタアナリシスの方がエビデンスが高いと判断しますか?

7)Late MA.17の詳細を教えてください
1~7年間タモキシフェン療法の経過後に開始された場合でも、レトロゾールは、アロマターゼ阻害剤(フェマーラ)を用いた治療は、乳がんの再発リスクを減らすことができたのでしょうか?
DFSはレトロゾール投与群のほうが良好(HR:0.37,95%CI:0.23―0.61)であったようですが具体的な数値を教えてください。OSは伸びていないのでしょうか?

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2019.01.12 清水 0 コメント

1) MA.17試験は二つ報告があります。最初は2003年に発表されたもので、Tamoxifen 5年内服後Placebo(偽薬)もしくはLetrozole を5年間内服する群の比較の結果で、中間解析(中央値2.4年)ではっきりとletrozole内服群が勝っていた(生存率で93% vs 87%, P<0.001)ため、倫理的に試験続行が中止された、という報告です。したがって、Tamxifen 5年内服後にLetrozole 5年内服することは、生存率を上げるらしいが、どのくらい上げるのか、それに伴ってどのような有害事象が起きるのかについては不明なままになっています。二度目の報告は2008年で、この試験で偽薬群に割り付けられた患者さんを本人の希望でLetrozole内服するか、偽薬を内服し続けるかを選んでもらって、試験を続けた結果です。この試験は無作為割付試験ではないため、その結果の解釈には慎重になる必要があります。ご質問のデータは後者のものと思われます(学会発表時はHR=0.25でしたが論文ではHR=0.37でした)。HRとはハザード比のことで、この場合は相対的な無病期間の比を表しますから、ご指摘の通り、HR=0.25とは偽薬群に対してLetrozole群のほうが75%再発が少なかったということです。とても大きな数字に思えますが、これは数字のマジックで、ホルモン陽性でTamoxifenを5年内服した方の5年以後の再発は決して多いものではありません。ですから、実際の無病生存率(内服開始してからの中央値5年)で見ると95.1% vs 91%で、その差は約4%です(HR=0.37の論文のDATA)。同じデータでも表現を変えると数字が大きく異なることがわかりますね。無病生存率(DFS)の場合、対側乳がんの発生などもeventとして数えられるので、生存に大きく関係する遠隔転移のみをeventとしたdistant DFSでは 97.7% vs 95.6%でした。同じDATAから生存率については 96.8% vs 90.2%でした。偽薬群の生存率が低い感じがしますが、これは最初にお話ししたように無作為割付試験ではないので、偽薬群の方に高齢者が多く、状態の悪い人が多かったことがわかっていますから、その影響なのかもしれません。この辺を含めて、この試験の結果の解釈は注意が必要です。

2) BIG1-98は複雑な試験で、Letrozole 5年 vs Tamoxifen 5年の比較と、Letrozole 5年 vs Tamoxifen 5年 vs Letrozole 2-3年->Tamoxifen 2-3年 vs Tamoxifen 2-3年->Letrozole 2-3年の4群の比較を行い、二つの試験に共通のLetrozole 5年 vs Tamoxifen 5年の比較が行われ、その結果がご指摘のハザード比0.81だと思います。ですから⓵と⓶の比較の結果です、相対無病生存期間が19%減少したということで、絶対値では85.6% vs 82.1%でした。BIG1-98のDATAから言えることは、TAM 5y vs Let 5yはLet 5yが良かった。TAM->Let vs LetではLETが良かった。Let->TAM vs Letは差がなかった、という事実のみで、“どのタイミングでも…“というようなことは言えません。

3) ITA試験はBIG1-98やTEAM試験に比べると、試験参加者が一桁少ないので、そのパワーは弱い試験です(ですから後日meta解析が行われました)。他の試験同様、TAM->AnastrozoleはDFSは改善したが、全生存期間は改善しなかったというデータ。2006年以降のDATAは報告されていないので、更新版はありません。

4) ABCSG 6a試験(Tamoxifen 5年内服後にAnastrozoleを追加して内服するか、しないかの比較)の結果だと思いますが、ご指摘の通り、有意の差を持って(P<0.031)Anastrozole投与群の無病生存期間は相対的な値で38%改善し、全生存率は差がなかったということです。具体的には、投与後5年目で無治療群466人中35人が遠隔転移を起し、Anastrozole内服群386人中16人が遠隔転移を起したということです。死亡者(全ての原因)は55人/466人(11.7%) vs 40人・386人(10.3%)で、乳がんが原因で亡くなった人の数は 25人/466人 vs 12人/388人だったということです。

5) KI-67という検査は、病理の先生が、標本上の細胞を1000個数えて、Ki-67陽性細胞が何個あったかを表した数字です同じ標本を見ても数えた医師によって数%の差がつくことは容易に想像できます。ですからKI−67のカットオフ値は、その論文、その施設が設定したカットオフ値なので、それがそのまま皆さんの検査結果に適応できるかどうかは、主治医の先生に尋ねてください。ですからご質問のルミナルA,B別の生存率も、その施設のKi-67のカットオフ基準が13.25%であったということで、14%というのもSt Gallenの会議で引用された論文のカットオフ値なのです。

6) ABCSG―8,ARNO 95,ITAの3つの試験のメタアナリシスの結果は、ご指摘の通り、TAM->Anastrozoleの方がTAM 5yより29%死亡が少なくなるという結果です。
SEとはstandard errorの略で、標準誤差です。詳しいことは統計の本で勉強してください。
ふたつの試験の結果の差が小さい時は、サンプル数を大きくしないとその差が意味のある差なのか、偶然の差なのか区別がつきません。メタ解析は似た試験を合わせることでサンプル数を大きくできます。その結果、2群間の差に有意差がついたのでしょう。しかし、メタ解析は背景因子や条件の異なる試験を合わせるので、厳密な意味では正確な試験結果とは言えません。その解析手法を正しく用いた場合のみエビデンスレベルが高いと言えます。

7) (1)でお答えしたように、この試験は無作為割付試験ではありませんから、そのように明言はできません。しかし、様々な状況を鑑みても、この無病生存期間の差は意味があると考えて論文にしたのだと思います。ですから、多くの医師はこれを肯定的に捉えていると思います。OSについては前述の通り、両郡間の背景因子の差が大きいため検討は出来ません。(文責 清水)

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