年齢51歳、女性。本日、全摘後の病理検査にて、アポクリン癌 トリプルネガティブ ステージ1 大きさ2cm KI-67 10% リンパ節転移なし、また手術後にセンチネルリンパ節陰性と聞きました。術後治療は抗がん剤しかないが、再発も低いので効果は少ないと言われました。最終的に抗がん剤をするかしないか、1週間後まで保留となりました。抗がん剤をした方が良いのか、自分的には抗がん剤は受けたくないので、とても悩んでいます。先生方ならどのような術後治療を進められるでしょうか? 抗がん剤を受けない選択もあるのでしょうか? また主治医とはどのように話をしてよいのかも教えてください。
乳腺アポクリン癌は乳腺浸潤癌特殊型に分類され、発生頻度は全乳癌の約1%と多くはありません。ER(―)PGR(―)HERⅡ(―)のトリプルネガティブの症例が多く、リンパ節転移陽性率は低く予後は良いとされていますが、一部は悪性度が高いとの報告もあり、化学療法を推奨する意見もあります。
治療の考え方としては次のようになります。今までの臨床試験の結果から得られたエビデンスに基づき、転移再発のリスクが少なくなる治療法(ガイドラインに記載されている治療法)が推奨されています。推奨されている治療法に従って治療を行ったからといって再発しないとか、推奨されている治療を行わなかったから必ず再発するとかではありません。臨床試験では共通する治療項目の症例(例えば、トリプルネガティブの症例)を多数集め、幾つかのグループに分け、グループごとに検討評価をするのですが、様々な治療法の中で再発・死亡が少なかったグループの治療法が推奨される事になります。
アポクリン癌は、現在までに臨床試験が行えるほど多くはなく、『アポクリン癌』と言うくくりではガイドラインに記載されていませんが、『トリプルネガティブの症例』というくくりでは、エビデンスに基づき抗癌剤治療が推奨されています。
貴女個人の再発のリスク予測する因子を考えてみます。【①腫瘤の大きさ(大きい方がリスクが高い)→2cm<大きくはない> ②リンパ節転移の状態(転移があるほうがリスクが高い)→リンパ節転移無し ③癌細胞の悪性度(病理学的悪性度 グレードの高いほどリスクが高い)→記載がない ④がんの増殖能(Ki67が高いほうがリスクが高い)→Ki6710%、<高くない> ⑤癌細胞のHERⅡの状態(HERⅡがあるほうがリスク高い)→陰性<高くない> ⑥脈管侵襲(切除標本で癌周囲のリンパ管・血管に癌細胞がどの程度入り込んでいるか。侵襲がある方がリスクが高い)→記載がない】
以上より、貴女の再発の予測因子は記載がないものを除けば、リスクは高くないと思われます。貴女の病気について一番情報をもっていらっしゃる主治医とメリット・デメリットについて相談をし、納得のいく治療を選択してください。(文責 須田)